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長田神社の追儺式(神戸市 渡辺良正撮彦)

 

教が本来もつ、戒律遵守や自省という自らの行を、大乗の思想として国家や万民の平安の為の行へと転換させた儀礼といえる。鬼追いは、悔過の行事の結願(最終日)に、悪疫退散を五感に訴える演出として定着したのであろう。寺社の法楽や儀礼は、宗派をこえて一般に認知された、豆などの呪物で悪鬼を祓い、幸福を招来する節分の習俗へと連続する。東京国立文化財研究所芸能部では、前部長の佐藤道子名誉研究員がライフワークとして悔過の研究を継続し、紀要である『芸能の科学』五〜一九号、佐藤道子編『中世寺院と法会』法蔵館(平成六年五月)の巻頭論文「悔過会
中世への変容」に、全国の悔過の行事の調査比較に依拠する論文を発表している。また、同所の研究員が共同で進めた「伝統芸能における『鬼』の実証的研究」の成果が、『芸能の科学二四』(平成八年三月)などで公刊されている。同号に掲載の中村茂子「民俗行事・民俗芸能の鬼」、高桑いづみ「乱声の系譜雅楽・修正会から鬼狂言へ」両論文を参照しながら私見を交えて検討してみたい。先述した狭義の「儺」以外に年越しや奉迎えにはさまざまな習俗が伴う。さらに冬から春へ(年木・正月・小正月・節分)のほか、夏から秋への夏越しの儀礼、南島文化圏の旧暦八月からの新節なども含めるとさまざまな悪疫退散の儀礼がみえる。すでに広く指摘されている小正月の来訪神(ナマハゲなど)も当然視野に含めて異形・大音(乱神などという)による疫

 

 

 

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